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「ほとり雑記帳」

京都文化博物館「織田有楽斎展」逃げるという生き方

2023.05.11


天野純希さん著「有楽斎の戦」冒頭。

織田信長が明智光秀に討たれる本能寺から、必死のパッチで逃げだす有楽斎…

そんなシーンから物語が始まります。


織田信長の弟として織田家に生まれた有楽斎(源吾長益)。

武家に生まれながらも戦を嫌い、文化を愛し続けた大名茶人です。

戦を避け、なりふり構わず逃げて生き延びることを選び、「逃げの源吾」という歌が流行するほど。

そんな有楽斎の四百年遠忌にあたり、京都文化博物館では「大名茶人 織田有楽斎展」を開催中です。




晩年を過ごした建仁寺・正伝永源院に伝わる文化財の品々。

茶人として名高い有楽斎ですので、名物茶道具が並ぶのかと思い足を運びましたが…

のっけから目が釘付けになったのは、本能寺跡から出土した、焼け残った瓦 (!)

そして次から次へと展示が続く、有名武将たちの直筆の書状の数々(!)

細川忠興、伊達政宗、前田玄以、藤堂高虎…そして家康に秀吉。

この時代が好きな私はワクワクどきどきでなかなか足が先へ進まず…
有楽斎という人は、茶人である前にやっぱり織田家の武士なのだと再認識しました。


香合、茶入れ、水差し、お茶碗などなど、有楽斎ゆかりの茶道具はもちろん見応えあり。

中でも興味深かったのは、お茶杓。

竹野紹鴎、千利休、そして有楽斎それぞれの手製のお茶杓が比較して展示されていました。

なじみのある形をした紹鴎作と有楽斎作と比較すると、利休作のお茶杓は個性が強い。

利休の生涯を思い返してみたり、生き方や好みがお茶杓の形に出るのだろうかと考えてみたり。


逃げの源吾と言われるくらい、わずらわしい戦を必死に避け、愛する茶の湯へ逃げこんだ有楽斎。

どことなくいつも腹に想いを抱え、茶の湯に対して高い美意識と完成度を求め続けた利休にくらべると、なんとも飄々としたような印象が残ります。

戦国時代、戦わずに逃げるというのは相当なヘタレ評価ではあったと思うのですが、現代ではむしろ逃げることも大切だという考え方も聞くようになりました。

死ぬことから逃げるのではなく、生きることができる道を選ぶ。

自分にとって、武士の名誉よりも大切な「茶を点てたい」という気持ちに従う。

その気持ちに従って逃げ続けた有楽斎は、自作の茶室でお茶三昧の余生を送り、現在も続く武家茶道「有楽流」の創始者となりました。

同時代の茶人、織部や利休の最期が切腹であったことを思うと「逃げる生き方」の是非をしみじみ考えさせられる思いです。

書状などに書かれた有楽斎の花押は、丸が大きく目立つユーモアを感じる形。

有楽斎手製の茶碗には、丁寧な金継ぎが施されていました。

そんな展示物を見ていると、有楽斎という人物は戦国の乱世に生まれながらも、飄々と明るくただただお茶を楽しんで過ごしていたのかな…と妄想をしてみたり。


有楽斎が晩年を過ごした正伝永源院は現在、建仁寺の塔頭となっています。

素晴らしいお庭と、有楽斎が建てた茶室「如庵」のレプリカがこの週末まで特別公開されています。


戦うべきか、逃げるべきか、どちらが正解なのか。

「逃げる」のではく「違う道を選ぶ」と言い換えることができるのなら?

小さな選択を繰り返す日々の中、歴史から生き方を考えるきっかけとなる展覧会かもしれません。


四百年遠忌記念特別展 大名茶人 織田有楽斎
会場:京都文化博物館
会期:2023年4月22日(土)~6月25日(日)
※会期中、一部展示替えあり。
開室時間:10:00~18:00(金曜日~19:30)※入場は閉室30分前まで
休館日:月曜日 ※5月1日は臨時開館
入館料:一般1,600円、大高生1,000円、中小生500円

詳しくは、公式サイトへ。


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