2024.09.18
手仕事、という言葉に惹かれます。
人間が手指を使って道具を生みだすこと。
そこには人が時間を使い、労力を使うという「スキップ」できない工程が必ず生まれます。
AIや工業が人の脳みそや手の代わりをいくらでも担える時代。
そんな中で人が手をかけ、時間をかけ、手間をかけるということの価値は、これからもさらに高まっていくことと思います。
ライブラリーに置いてある本の中でも、とりわけ好きな一冊。
三谷龍二さん「遠くの町と手としごと」
木工デザイナーでもある三谷さんがゆかりの地、福井、京都、松本を巡り、生活工芸品という道具、そしてその作り手の職人さんたちのお話を綴られています。
京都編では開花堂の茶筒、鍛金工房WESTSIDE33の行平鍋、ザ・ライティングショップの活版印刷カード…など、生活工芸品と職人さんやお店が紹介されています。
(初版が2009年の本なので、移転されたお店や休業中のお店もいくつか)
三谷さんと職人さんとのお話を読んでみると、手に取りたい、見てみたい!という欲がむくむくと。
コーヒーを飲みに喫茶店へ、でも目的は作品鑑賞というお散歩へ出かけました。
先日の糺の森の帰り道、遠回りをして百万遍へ。
90年も前からこの場所で京大生の勉学を支えてきた喫茶店。
進々堂京大北門前。
ここで拝見できるのは、後に人間国宝になった木工家/漆芸家の黒田辰秋さんが若かりし頃に制作された、楢の大テーブル。
もともとは拭き漆で仕上げられたこのテーブル、90年を経てたくさんの人に触れられ、今では木目も露わに素地を感じる佇まいに。
作品の完成度もさることながら、年月を重ね、人が使うことでさらに磨きをかけてきた美しさ。
手間や経年というものには、替えがたい価値があるのだと感じます。
進々堂の店内に座って感じるのは、新しいものが何もない、という感覚。
聞こえるのはBGMではなく、見たこともないくらい、古くて大きなエアコン(クーラーと呼ぶのがふさわしいのかも)の、低い運転音だけ。
黒田辰秋さんのテーブルのしっとりとした手触りも相まって、何時間でも本を読みたくなるような、居心地の良い場所でした。
※店内撮影不可のため、写真はこちらからお借りしました
「進々堂 京大北門前 」
京都府京都市左京区北白川追分町88
京阪・叡電出町柳駅より徒歩10分強(ゆっくり歩けば15分~20分程)
営業時間
月・水・木・金・土・日 10:00 – 18:00
L.O. 17:30
TEL 075-701-4121
ほとりから近いのはこちら。
京都、東京、ミラノに拠点をおき、日本の伝統工芸や職人仕事を現代的にアレンジしたオリジナルプロダクトを制作、販売されているスフェラ。
祇園の「せせらぎの道」を歩けば、緑豊かなエントランスが目をひきます。
1階はわんちゃんもOKのカフェ。広々した空間に点在するアート。
外と中が絶妙に連続したようなデザインで、気持ちのいい明るさです。
そして二階はギャラリー兼、ショップ。
洗練されたデザインと、日本の工芸品の素朴な雰囲気を併せ持つ、素敵な器や家具ばかり。
以下、三谷さんの著書からの引用です。
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スフェラ・クリエイティブディレクター眞城さん
「日本の手仕事を日本国内だけで消費しようとすると限界があるのです。でも海外にそれを、ものの背後にあるものも含めてうまく紹介することができれば日本の魅力と一緒に新たな手仕事の需要を作ることができるように思うのです。僕はそんな仕事がこれからしていきたい。」
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この本の出版から15年経ち、時代も大きく変わり、日本の手仕事は海外からだけではなく、国内での価値も高まっているように感じます。
スキップできない、人がかける手間と時間、そして経年。
それらを重ねることでより美しさが増していくもの。決してAIが生み出せないものですね。